宮崎の南海上の上空に出現した火球(2013年1月28日5:56:05JST)
上田昌良、司馬康生、下田力
対地経路図
同時観測
この火球は前田幸治氏(宮崎県)がTV観測で捉え、久保岳穂氏(長崎県)がデジカメで撮影していた。これで2カ所での同時観測となり軌道計算ができることとなった。宮崎から200 kmの南海上の上空に出現した継続時間が長く、速度も比較的ゆっくりの火球であった。我々はこの同時観測となった火球の軌道決定した。
撮影映像
図1.TV観測での動画を静止画にしたもの。発光点は写野外で消滅点は写野内にあった。
2013年1月28日5:56:12JSTより写っている。
撮影は前田幸治氏(宮崎県)。
図2.先の図1の火球の分裂の様子。
A:5:56:13JST、火球本体の横に1個の分裂片がある。
B:5:56:15JST、さらにAとは別の分裂があった。
C:5:56:17JST、火球本体の前に分裂片が1個ある。
D:5:56:19JST、火球本体の前に2個の分裂片がある。
図3.デジカメによる火球。発光点が写野内にあり、消滅点が写野外である。
撮影久保岳穂氏(長崎県)
現地の日の出は7:18JSTごろであるので、火球出現時の空は充分に暗かった。しかし、満月直後の明るい月が輝くという空であった。
火球の位置測定
久保氏の火球については、下田と司馬が(M13026)測定を行った。前田氏の火球については、UFOAnalyzerV2ソフトウエアで自動測定(間隔1/60秒)にて前田氏が(M13024_160)、手動測定(間隔3/30秒)にて上田が(M13024_330)行った。久保氏の火球については、デジカメで画素数が多く測定精度は良かった。前田氏の火球はビデオ映像で画素数が多くなく、火球が分裂をしていたのでソフトウエアによる自動測定では、1フレームで2カ所の測定がされていたので、1フレーム1カ所を選別した。また、その動画を前田氏より提供していただき、上田が3フレームごとの位置を測定した。
図4.前田氏の火球の位置測定
実経路
2カ所からの火球位置を使って軌道計算を行った。火球の実経路長は338 kmという長さで、継続時間も22秒という異常な長さであった。そのため撮影された火球は久保氏の映像で41°に達する長さで写っていた。突入角は5°という浅い角度で大気圏に突入してきた。観測地と火球までの距離は、宮崎から約207 kmで長崎からは約497 kmという遠方の南海上の上空であった。
消滅点の高さは50.9 kmと予想外に高く、この高さでは隕石落下の見込みがなくなってしまった。
図5.火球の実経路
速度と光度曲線
この火球の前田氏のものを高さと速度の関係にして次の図6に示した。各測定フレームごとの速度はばらつきが大きかった。この結果からは減速はみられなかった。
軌道計算の結果からの平均の速度は、V∞=27.5 ±11.3 km/sという予想外の速いものであった。図6から速度の決定はばらつきが大きかった。これは図7に示したように同時流星の天球上の交差角が7.1°と小さかったために速度決定の精度が悪かったと考えた。
それで、前田氏の実経路長が150.1 kmあり、精度良く求まっているとしてその継続時間が10.17秒であったので速度を14.8 km/sと算出した。今回は前述のように減速がみられなかったので、このような単純平均の速度を採用した。
今回、同時流星の天球上の交差角が小さかったが、撮影された火球の経路が充分に長かったので、輻射点と実経路が比較的精度良く求まったと考えている(図5,7)。
光度曲線は、図6のとおり前田氏の火球で、経路の途中からの光度変化である。ここでは最大の絶対光度が-3.3等となっている。前田氏は、もう少し明るかったのではと述べている。
図6.高さに対する観測速度と絶対光度
まとめ
九州の南の海上の上空に出現した火球の同時観測ができて軌道が決定できたという意義は大きい。火球観測網の空白域が熱心な観測者により減っていくことには敬意を表したい。今回の火球は継続時間が22秒という異常に長いのが特徴的であった。
最後に、前田氏と久保氏には貴重な火球の撮影映像とデータを提供いただいたことに感謝を申しあげる。
図7.同時流星の天球上の交差角
表1. 軌道等、2013-1-28, 5:56:05JST |
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年月日 |
(YYYYMMDD) |
2013/1/27 |
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時刻UT |
(hhmmss) |
20:56:05 |
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視輻射点 |
αo |
306.6 |
±0.42° |
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δo |
+14.1 |
±0.43° |
修正輻射点 |
αG |
327.0 |
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δG |
+2.0 |
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観測速度 |
V∞(Km/s) |
14.8 |
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消滅点での速度 |
V (km/s) |
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地心速度 |
VG(Km/s) |
9.2 |
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日心速度 |
VH(Km/s) |
34.7 |
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交差角 |
Q(deg) |
7.1 |
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絶対光度 |
(Mag). |
-3.3 |
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発光点 |
Hb(Km) |
82.7 |
λ:134.534° φ:+30.637° |
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* |
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消滅点 |
He(Km) |
50.9 |
λ:130.926° φ:+29.938° |
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* |
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a :軌道長半径 |
(AU) |
1.48 |
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e :離心率 |
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0.406 |
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q :近日点距離 |
(AU) |
0.879 |
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Ω :昇交点黄経 |
(deg) |
307.91 |
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i :軌道傾斜角 |
(deg) |
3.89 |
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ω :近日点引数 |
(deg) |
128.93 |
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P :周期(年) |
(yr) |
1.80 |
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流星群名 |
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Spo |
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継続時間 |
(sec) |
22 |
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太陽黄経 |
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307.914 |
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突入角 |
(deg) |
5 |
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測光質量 |
g |
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実経路長 |
km |
338 |
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(J2000.0) |
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